エゾノクサタチバナ

 私、この花が好きなんです。エゾノクサタチバナ。珍しい緑色の花です。

あれは幼稚園の頃、みんなで塗り絵をしていたんです。当時の私のお気に入りはカラフルだったので、お父さんの顔もお母さんの顔もピンクや水色で塗っていたんですが、私は沢山ある花を全部別々の色で塗ったんです。色鉛筆を順番に使って、緑や茶色、黒も使って花を塗りました。

すると当時好きだった女の子が寄ってきて「このお花、変なのー」と緑の花を指差したんです。周りの友達も「ほんとだ、変なのー」と言い始めました。でも茶色の花は「枯れてるだけだから変じゃない」という評価を受けました。

別にたいしたことじゃないんですが、なんか恥ずかしかったし、ショックだったので覚えていました。

 その数年後、もう一回同じようなことがありました。小学生の頃、図工で花の絵を描いたんです。その時に、私は輪郭を緑色の絵の具で描いていました。茎とか葉っぱはそのまま一本の線で表せるから。それで花の輪郭も緑で描いていて、ある時細かく描きすぎて塗り潰しちゃったんです。

 で、まあ普通に塗ったことにすればいいやと思って描き進めていったら、やはり言われたんです。今度は先生に。「ここは緑じゃないでしょう」と。

 でもその時既に私はエゾノクサタチバナを知っていたので、直しませんでした。なんか子供の頃のこういう記憶って不思議ですよね。どうでもいいことなのに、なんだか無性にこだわっちゃったりして……。

 そんな思い出から、エゾノクサタチバナは思い入れのある花なんです。でも絶滅危惧種になっているなんて知りませんでした。道内の大部分の生育地で、生育条件が悪化しつつあるようです。

 東京では育たなかったという話も聞いたので、もしかしたら生育条件が厳しいのかもしれません。気候の問題かもしれないけれど、やはり北海道で力を上げて取り組むべき問題のようです。

この花は、日本では日高山系、夕張山系、狩場山系、阿寒山系、渡島に分布しています。あとは海岸沿いの原生花園でも見られるそうですよ。

ちなみに原生花園とは人為的な手を加えず、自然をそのままにした状態でも色鮮やかな花が咲く湿地帯や草原地帯のことです。自然のお花畑とも言える場所で、独特の植生が見られます。そのため北海道旅行客にとっては目新しく、関心を引くこともしばしばです。

 星型の花はチャームポイントで、エゾノクサタチバナが属するガガイモ科のものによく見られます。同じ星型の花を付ける植物にカモメヅルがありますが、こちらは紫色なので印象が異なってきます。

 エゾノクサタチバナの花は7月に咲きますが、夏に星型の花を咲かせるなんて、なかなか季節感のある植物だなと思います。これだけ聞くと南国の花のようなイメージを与えるかもしれませんが、実物を見ると、とても素朴な優しい雰囲気の花で、いかにも北国という感じがします。

 名前は「タチバナ」と付きますが、これは見た目が似ていることから付けられただけで、特に関係性はありません。

 

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